仕事をつくる/安藤忠雄

試験終わりなので読みやすい本をと思って手に取った。

2011年3月に日経新聞に連載されていた私の履歴書に加筆した本。

安藤さんは日本で最も多くの人が知っている建築家の一人だけれど、どこでついたのか私は結構拘り派、悪く言えば頑固なイメージを持っていた。数日前に偶然テレビ*1で話す姿を見てその気さくさが意外だったのもあって、読んでみようと思った。名前は知っていて、その実何も知らない有名人は結構多い。概念だって、知った気になっているけれど説明しろと言われると難しいものはたくさんあって、勉強しなきゃーと思う。一人称主体のエッセイなので、きっと周囲の人から見たらまた違う安藤さんがいるのだろうけれど、立場に立ってみないと見えない視点というものはあって、一人称エッセイはそこの鱗片が見られるとモティベートされる気がする(気がするだけなのでちゃんと行動に移さないとだめ)。以下中身についてのメモ。

人生のこと。熱量。こういう書籍は成功した後に書かれるから、本当の当時はどうだったかは割り引いて考えなければならないけれど、大学に行かずに独学で建築を学んだこと、28歳で事務所を立ち上げて仕事がなかったことから今のことを追っていくと、真剣に向き合えば、人の巡り合わせは来るものなのかもしれない。逆に、どんなに人生計画をしていても、時の運に任さなければいけないことはたくさんある。例えば人の出会いは、自分で「こういう人に出会いたい」と思っても自分の力でこの変数を動かすのはかなり無理。設計の案件なんて露骨にそうで、クライアントがいるかいないかは世界情勢にも個人の経済状況にもその他諸々に左右される。プンタ・デラ・ドガーナの仕事の経緯(「しつこく挑戦、次の糧に」p.188)を読むと、もともとパリ、セガン島に現代美術館をつくる計画だったけれど、既存建物を解体までしたところで、都市インフラの整備が追いついてこないせいで中止、気落ちしそうだったところにヴェネツィアに場所を移したコンペにピノー氏と参加して完成した。しかも反ANDOのデモが起きる。大阪の経営者たち、ピューリッツァ夫妻、いわき絵本館の巻レイさん。こういう信念を持った人たちが世界にはたくさんいるんだなあと思うと、地道な勉強をしていてこれが何に繋がるんだろうと思うときに、もうちょっと頑張ろうと思える。

震災のこと(「復興へ心をひとつに」p.174、「今こそ日本が一丸に」p.240「人間性育む教育に未来」p.244ほか)。時期が時期であるだけに震災に対する言及が多い。私は阪神淡路大震災をリアルタイムには知らないので、そのどちらもに実務家として関わった人がどう感じていたのか比較がされている。安藤さんにとってのオリンピックも同じで、1964年は学生として、2020年は実務家として関わっているけれど、近い将来東京を含めた東海が被災する可能性が高いことを考えると、自分たちが次は復興をする担い手として関わる可能性を考えておかなければならない。災害が起きたとき、どういう対策を取るようになっているのか、一連の流れ(行政から施工まで)が既に雛型として存在するのか分からないけれど、例えば本の中で言及されている「桃・柿育英会」はどの災害に対しても立ち上げることができるし、立ち上げるべきだと思う。子どもたちにとっての一年は長いと同時に取り返しのつかないものだから初動が特に大事だけれど、東日本大震災のとき、個人的に気になったのは類似団体の乱立だった。一本化、というのは少し気持ちが悪いけれど、例えば事務局だけは統一すると、現地での需要分布や配分経路を調べる作業が集約されたり、「目についた人、縁があった人に多く寄付が届く」というような不必要な不平等が解消されるのではないかと思う。

オリンピックのグランドデザイン(2006-2009)と渋谷駅(2013)、同潤会青山アパートメント(1996)のこと。新国立競技場の審査委員として、自分の周りではザハ案を選んだことに対する負の意見が多い。しかし安藤さんが大きく関わっていたのは2016年招致の方であって、その後の関与がどのような形で行われたかは知らない。2020年の方は2013年に開催が決定しているから、震災から2年後という時期を考えるとそこまでコミットしていなかったんじゃないかと想像する。確かに2011年地震があって、それ以前から都は招致計画に人員を割いていたんだろうけれど、その分を復興の方に回さなくて良かったんですか、と、今となっては少し思わなくもない。

10年後の東京の姿をどう描くか、この重責を担うメンバーとして指名されたのは光栄だったが、何しろ都市づくりの専門家ではない。大変難しい仕事となることは容易に予測できた。(p.229)

中心テーマは環境として、1964年の際のインフラ整備による「成長」とは異なる、肥大化した都市をどう制御するかという「成熟」コンセプト自体は非常に共感できるし、きっとこの人のことだから心血を注いで計画したに違いないと思う。都市づくりの専門家として高山英華さんの本を一緒に借りてきているのでそちらを続けて読みたいところ。渋谷駅はまだ完成していないから評価はできないけれど、長く利用している駅だけに愛着もある。

特に見たいところ。青山同潤会アパートメント/野間自由幼稚園/上海保利劇場/ベネッセハウス/光の教会/住吉の長屋

読むときにメモを取らなかったので全体を思い出すときに雑になったのでそこは反省。慣れてきたら一度で本の内容が掴めるらしい*2ので、そこまではきちんと訓練する必要がある。

*1:NHK「あの人の健康法」

https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_714.html

*2:今年2月に円城塔さんの講演会に行ったときに、「自分は大きく(中学生くらいに)なってから本を読み始めたから本の読み方を習得するのに結構時間がかかった」みたいなことを言っていた(ごめんなさいうろ覚えです)、絶対的読書量増やそうと思った